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網岡健司「地域進化論」を考える 〜持続可能なまちづくりのビジョン、ミッション、パッション〜 第五話

  • 2019年03月05日
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前回までに「地域の進化」のビジョンに関わる論考として、広井良典氏の「定常型社会論」と米国の未来学者アルビン・トフラー氏が提唱した「第三の波」をご紹介しましたが、今回と次回は、進化の方向性やモノサシに関する北九州、福岡発の2つの「論」に触れていきたいと思います。

1つ目は、「ストック型社会論」です。
次世代システム研究会代表で岡本久人氏(*5-1)が提唱されている理論でストック型社会とは「価値あるものを造って大切に長く使う社会」のことです。
この考え方は、新日鐵住金㈱八幡製鐵所に勤務しておられた岡本氏(同氏は筆者の大先輩でもあります)が技術協力等で1980年代に駐在したイタリアでの生活体験から生まれたものでした。
当時、日本はバブル景気の最中、GDPや賃金も世界トップレベルとなり海外で仕事をする日本人のプライドも大いに高揚していた時期であり、同氏も胸を張ってローマに赴任されました。

ところが現地で暮らしてみると、経済力や賃金では劣っているはずのイタリアのスタッフや友人たちは、誰もが夏には最低一ヶ月のバカンスを楽しみ、多くは別荘さえ保有しているなど、日本人よりはるかに豊かな暮らしを満喫していることを目の当たりにし、とても不思議に感じたそうです。

そして、しばらくして、その大きな要因は「世代を超えたストック」の存在にあることに思いあたったのです。彼の地は、家や家具から都市基盤などの社会資本までが世紀を超えるほどの長寿命で、世代が進むにつれ資産が蓄積するストック型社会。
これに対して、我が国は平均寿命30年の家(図1)に代表されるようにモノの寿命は短く、世代ごとにほとんど資産を更新しなければならないフロー型社会。名目上の経済大国であってもこのようなライフスタイルや社会経済システムを続ける限り、日本人は実質的な豊かさを享受することができないか、という思いに駆られたのです(図2)。

網岡コラム第5回(図1)

網岡コラム第5回(図2)

そして、同氏は、この思いを持ち帰り、次世代システム研究会を有志で立ち上げ、経済、環境やまちづくりなどに関わる様々な分野の研究者や行政あるいは地域の関係者と議論を重ねながら、我が国の進むべき道、政策論として「ストック型社会への転換」を提唱するに至りました。
「ストック型社会」とは、以下のような社会像を指すものです(図3)。

1.社会資本・個人資産を長寿命型にし、モノとしての資産の世代間蓄積を図る社会です。その結果、国や地方自治体の財政や国民の生涯収支に「ゆとり」が生まれ豊かな社会になります。
さらに
2.後世代の生涯資源消費量が小さくなり、国・地域における資源的自立も可能になります。
3.これによって持続的な社会繁栄と地球環境保全を両立できる社会になります。

(ストック型社会とフロー型社会についてのアニメーションが公開されていますのでご参照ください。)

図3
網岡コラム第5回(図3)

この考え方は、徐々に世の中に理解され共感を得られるようになり、2007年発足の福田内閣においては、その政策の柱の一つとして「ストック型社会への転換」が取り上げられ、2009年の超長期優良住宅普及促進法(いわゆる200年住宅構想)立法や地球温暖化対策をテーマとした洞爺湖サミットでの「環境モデル都市」構想の提示などにつながっていきました。

政権交代後ブームはいったん去りましたが、2011年の東日本大震災からの復興あるいは人口減少・高齢化社会に対応したコンパクトシティ化などの推進、さらには2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成など、国内外で世代を超えるような長期的な課題を解決するための道や取り組みが模索されている状況の下、この「ストック型社会」の考え方は再び見直され始めています。

持続可能なまちづくりのためには、社会資本を長寿命ストック型に置き換えていくことが必要となりますが、その際には都市基盤・施設等のハードとしての長寿命化もさることながら、それをどこにつくるのかということも極めて重要な課題となります。

ストック型社会論では、世代を超えて蓄積していくべき資産の集積場所についても、その地域の歴史的、文化的背景に加え、自然災害や気候変動等(ハザードマップ等)を考慮して安全・安心な場所に配置していくストックアロケーションの考え方が必要で、しかもこのような長期計画はこれまでのように行政や学者、地権者や地域の有力者等の限られたメンバーによって決めるのではなく、地域の住民など様々なステークホルダーの協働によって作り上げていくことがそのプランの持続的な実効性につながる、と考えています。

そして、このような住民参加型のまちづくりのプラン、シナリオづくりに際しては、まちの未来をわかりやすく「見える化」して、具体的なイメージを共有しながら対話することが極めて有効であることから、地域の経済、社会、自然環境等に関する未来を予測するための「地域シミュレーター」の開発を提言し、既にその試みが始められています。
何もしない場合(成り行きシナリオ)、そして何らかの策を施した場合それぞれのまちの未来を「体験する」ことで、大胆な発想やプランへの共感あるいは行動への覚悟が生まれることが期待されています。今後の展開を大いに注目していただきたい、と思います。

さて、今回はここまでです。
次回は、従来のフロー型経済の代表的指標であるGDPだけでは示すことのできない現在の経済の持続可能性を評価するため、ストックに着目し「豊かさ」を測るためのモノサシをつくる試みをご紹介します。

【注】
*5-1:岡本 久人 氏
北九州市立大学外国学部卒、新日本製鐵(現在の新日鐵住金)、同ローマ事務所駐在員、環境関連企業を経て、現在、九州国際大学客員教授、次世代システム研究会代表、文部科学省産学官連携コーディネーターなど。
著書:「45分でわかる!ストック型社会 あなたの未来を豊かにする日本の変え方」電気書院 など多数。

記載内容、図表の出典:次世代システム研究会 http://foss-stock.org

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網岡 健司

株式会社エックス都市研究所参与
名古屋大学大学院工学部原子核工学科修了
新日本製鐵株式会社(現 日本製鉄株式会社)に入社し、八幡製鐵所配属。同社のスペースワールド班に参加、以降一貫して北九州市八幡東田地区の都市再開発事業などの地域開発に携わる。
北九州市特区専門官、参与ならびに北九州市立大学院特任教授等を歴任(非常勤)、産官学一体の立場から持続可能なまちづくり推進の一環として社会変革を促す地域プロジェクトを企画・プロデュース。「情報の港」北九州e-PORT構想やエネルギー革命をもたらす東田コジェネ事業、「環境パスポート事業」、スマートコミュニティ実証事業、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録など数々のプロジェクトを手掛けている。
他にNPO法人里山を考える会理事、九州国際大学大学院特任教授「地域政策論」担当、八幡東田まちづくり連絡会会長などを務める。

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