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網岡健司「地域進化論」を考える 〜持続可能なまちづくりのビジョン、ミッション、パッション〜 第一話

  • 2018年08月29日
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「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。
だが、希望だけがない。」

1998-2000年に文藝春秋で連載された村上龍氏のベストセラー小説「希望の国のエクソダス」の中で主人公の一人である中学生が発した言葉です。
「2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた。経済の大停滞が続くなか彼らはネットビジネスを開始、情報戦略を駆使して日本の政界、経済界に衝撃を与える一大勢力に成長していく。その後、全世界の注目する中で・・・」(文春文庫の紹介より)という物語は、2018年の今でも、いや今だからこそ現実味を帯びているようにさえ感じられ、冒頭の言葉は心に刺さります。

失われた20年、超高齢化、人口減少社会、労働力不足、年金破綻、貧困、テロリズム、格差拡大、社会分断、いじめ、過労死、性差別、地球温暖化、異常気象、生物多様性危機などなど。
私達の周りには不安や危機感を煽るワードが溢れ、高度経済成長期やバブル景気の時代、エコノミーアニマルと世界から陰口を言われようと我が国の将来の発展に何の不安も無かったあの時代には到底考えられなかった閉塞感が世の中に満ち満ちています。
少々後退したとはいえ、それでも世界に冠たるGDP第三位の経済大国日本。アベノミクスによってカネもモノも巷に溢れかえっているはずなのに、「希望だけがない」社会。
そして、このような社会の状況を作り出している張本人は他でもない私達自身であること、そのことが、今の閉塞感と将来への不安を一層深刻なものにしているようです。

未来の衝撃

2014年、我が国の地方自治体にとって衝撃的な未来予測が発表されました。
この年に示された日本創成会議のレポートは、日本全体の市区町村(約1800)の約半数にあたる896は、今後10年から40年の間に若い女性の人口が半分以下に減少する「消滅可能性都市」に該当、うち523市区町村は人口が1万人未満となり消滅の可能性がさらに高い、と宣告されたのです。
当然のように全国の地方から一斉に悲鳴があがりました。政府はこれを受けて少子化対策に加え東京一極集中是正に向けた「地方創生」等の諸施策を講じ、各市町村もそのかけ声に呼応して、それぞれが懸命に様々な生き残りのための策を巡らせてはいますが、企業誘致、大学誘致や一村一品等、従来型の「地域活性化の方程式」はもはや通用しないことは明らかであり、地域、地方にとっては将来が見えない不安な時代、出口のないトンネルが続いているようです。

しかしながら、このような時代において危機感や恐怖をあおるだけでは行動にはつながっていきません。あまりの恐怖や危険に遭遇すると人間は、身構え、立ちすくみ、身動きできなくなってしまうのが普通だからです。
そのような意味で、地域社会やそのコミュニティーの住民や地元企業、行政にとって、今まさに必要とされているのは、地域の未来に、トンネルの先に、「希望」をもう一度見出し、前を向いて進んでいく勇気を取り戻すことではないでしょうか。

社会の希望

それでは、地域社会における「希望」とは、いったい何でしょうか。

「希望学」を主宰される経済学者、東京大学教授の玄田 有史先生は、「希望」を次のように定義されています。(『希望のつくり方』岩波書店2010。因みに冒頭の「希望の国のエクソダス」の言葉は本書でも紹介されています)
希望とは、行動によって何かを実現しようとする気持ち。
Hope is a wish for something to come true by action.

すなわち、「希望 (Hope)」は以下の四本柱からなる、としています。
①Wish : 気持ち、思い、②Something : 何か 具体的な何かを見定める、
③Come True : 実現 あるいは実現に近づける、④By Action : 行動

さらに、「社会的な希望(Social Hope)」には、上記の4本柱に、「他の誰か(others)と、希望を共有しようとすること。他者と共有する何かを一緒に行動して実現しようとすることが加わる」と述べられています。
Social Hope is a wish for something to come true by action with others.

また、希望は、幸福のような「状態」ではなく、「変化」と関わりが深く、
「希望は、現状を未来に向かって変化させていきたい時に表れる」とも指摘されています。

地域の希望は、どのような方向に自分たちのまちを変えていきたいか、という未来への変化への思いが共有されるとき表れ、行動を始める勇気が生まれる。そして仲間と一緒に行動していくことで変化が起こり、地域の未来がつくられる。
このように希望は不安な未来に立ち向かうパワーの源泉であり、まちづくりとは地域に希望を植える作業である、と言えるかもしれません。

希望は勇気を生み
勇気は行動を育み
行動は未来を創る

希望のモノサシ

地域の変化が「希望」となるためには、その変化によって地域が未来に向かって「良くなる」こと、もしくは「良くなると信じられる」ことが期待されますが、そのためには、何をもって「良くなった」と評価するのか、感じるのかという価値観あるいはモノサシを地域で共有しておくことが大切になりそうです。

これまで地域が「良くなる」、「発展する」ということは、「成長する」、「拡大する」とおよそ同義で、主に「GDP」や「人口」などの数量や規模で評価され、それに必要とされる生産性や効率性などが専ら重視されてきたように思いますが、このような従来の考え方や価値観をこれからの持続可能な社会づくりにそのまま持ち込むことには多くの人々が限界や矛盾を感じ始めているようです。
このため、近年これに替わるものとして、成熟、定常化、縮充あるいはヴィンテージなど様々な概念が提示されていますが、私は、「進化」という言葉が、これから未来に向かって行動する際の中心となる価値観、希望のモノサシとして相応しいのではないか、と考え、好んで良く使っています。

「進化」には、数量の多寡や規模の大小に依存せず、多様性や包摂性あるいは強靭性などを大切にする意識や、世代を超えて思いを継承していく意味合いがポジティブに包含されているように感じられるからです。

さて、お題目ばかりの書生論が続いてしまいました。
主題の近くまで辿りついたところで、第一話はこの辺にいたします。

(次話に続く)

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網岡 健司

株式会社エックス都市研究所参与
名古屋大学大学院工学部原子核工学科修了
新日本製鐵株式会社(現 日本製鉄株式会社)に入社し、八幡製鐵所配属。同社のスペースワールド班に参加、以降一貫して北九州市八幡東田地区の都市再開発事業などの地域開発に携わる。
北九州市特区専門官、参与ならびに北九州市立大学院特任教授等を歴任(非常勤)、産官学一体の立場から持続可能なまちづくり推進の一環として社会変革を促す地域プロジェクトを企画・プロデュース。「情報の港」北九州e-PORT構想やエネルギー革命をもたらす東田コジェネ事業、「環境パスポート事業」、スマートコミュニティ実証事業、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録など数々のプロジェクトを手掛けている。
他にNPO法人里山を考える会理事、九州国際大学大学院特任教授「地域政策論」担当、八幡東田まちづくり連絡会会長などを務める。

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