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信時正人の都市学入門(3)総合化への道険し

  • 2018年06月06日
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画像:横浜市の建制順(2007年~)都市学入門 総合化への道険し

 

前回(2018年05月09日掲載)、都市学とは総合的なものと捉えたい、と申しました。
都市つくりはハード、ソフト、ヒューマンの総合デザインです。

しかし、現在、自治体にしろ、国にしろ、縦割りの排除が声高に言われているものの、実際には変わっていないことが多いのではないでしょうか?
企画調整部とか、総合企画部とかいう名称の部署を持つ自治体も多いですが、実態としては、原局から上がってくるものをそのまままとめておくだけ、という事も多いのではないでしょうか?
国の内閣府もそうですが、自身の予算が膨大にあるわけではないので、結局は原局の予算に頼りきらなければならない。そこが究極的にまとめきれない原因となっています。

内閣府や、企画調整部に予算をたっぷり付けて、そこが全ての施策を統括的に実施していく、という仕組みが本当の意味では必要なのだと思いますが、それはなかなか実施できていません。
原局主導となると、それまでの概念に固執したり、既得権益に流されてしまう、ということは致し方ありませんね。人事面でも「○○畑」というようなことが横行し、所謂、ムラ意識が強くなっていることもありますね。

我がエックス都市研究所は“環境省系コンサル”だと決めつけられる悲しむべき実態があります。確かに、環境省から受注している業務が多いことは事実ですし、環境省OBも在席しています。しかし、エックス都市研究所は、創業期には都市マスタープランの策定で名を馳せていました。今もまちづくり関連業務に従事しているメンバーがいます。廃棄物分野には強いですが、これも都市のマネジメントの一つ。その分野は非常に重要ですが、もしかしたら、廃棄物処理をキーポイントにして都市全体のシステムへの提案もできていくかもしれません。私はできると思っています。

こういった発想がこれからは大事です。「○○畑」だと決めつけて、思考停止してしまう日本の風潮、その中にいる人たちには住み心地が良いのでしょうが(こういった風潮が先日の日大アメフト部の起こした問題にも通じるところがあると思います)、これでは何のイノベーションも起きるわけがないと思います。

兎も角、オープンイノベーションの時代に入ってきています。新製品の企画制作にもそれは重要ですが、都市つくりにはもっと大きなオープン性、総合性が必要だと思っています。産官学の融合、という言葉があり、至るところで叫ばれています。「○○畑」での対応では、今後のまちつくりはできない、という事が誰にも想像ができているのだと思います。

しかし、実際にはそう簡単ではないのです。価値観の違うセクターをどうやってまとめていくのか。私が温暖化対策の責任者をしていた横浜市では、私の所属していた温暖化対策統括本部(同本部ができた当時は地球温暖化対策事業本部)は建制順の一番に置かれています。建制順というのは、職制順とかともよく似ていて、局の序列です。一番という事は、副市長の下、通常一番に置かれる、政策局、総務局、財政局などよりも上に位置しています。当時の市長が決断したのですが、要するに市の姿勢として温暖化対策を市の最重要施策として位置づけ、市全体を温暖化対策に向けていこうという事でありました。今でもそれは不変です。

それまでは、市の温暖化対策というのは環境創造局という局の一つの課で対応しているといった非常に“ローカル”なものでありました。そこでは、PV(太陽光発電(Photovoltaic))への補助だとか環境啓発学習とかをやっていましたが、本格的に二酸化炭素を下げるために一課で対応していくという事ではなく、全市的な対応が必要であろうという事となり、本部を一番上の序列として対処していこうとなったのでした。ハード部局の協力、ソフト部局の運動論、市民向けや学校教育システムにも同調を求めていかないといけない、というのが理由です。

しかし、ご想像の通り、上に置いたからと言ってすべてOKではないのです。まず、基本的に、温暖化対策への理解も非常に薄く(なんでそんな面倒なことをしないといけないのだ?)、当方からの指示を聞いてくれるわけでもなく(建制順が一位だからと言って何の意味があるの?)、本部としての予算も小さく(事業費は各原局に大きく配分されている)、結局、他の多くの事例と同じく、形だけの本部設置となる可能性もあったのです。

私は、これは行動しかないと思い、部局を問わず、職制を問わず、同調してくれる個人を発掘し、我が本部のメンバーには、駅頭でのチラシ配布等も含み、事業の進展に関して上に乗っかっているだけではなくて“汗”をかくことを厭わずにやるようにお願いし、私自身もやっていきました。何かベンチャー企業の立ち上げと同じ感じですね。

市長や副市長の想いはあったので、全市的な委員会の設置や、予算面での措置も検討していったのです。その後、何年か経った後ですが、温暖化対策枠という特別な予算の配分(我々が配分先を決められる)も頂くようになって、少しずつ少しずつ、他の部局にも目を向けてもらえるようにもなっていきました。
基本的に市長や副市長の理解もあったから徐々に進んだのだとは思いますが、総合化への道はかくも面倒な道をたどらないといけないのだな、と改めて思いました。しかし、通常の役所仕事ではないため、やりがいも感じてやっていましたね。本部自体、当初は時限立法的な面もあったし、私は、各部局が温暖化対策を目指してくれるようになったら不要になるものだ、と公言していましたが、いまだ現状は、その途上であるのかもしれません。

しかし、地球温暖化は決してローカルな課題ではなくて、世界とつながっているものであって、その世界の動き(パリ協定、SDGs)も急であり、自治体もそれに体と頭を合わせていかないと立ち行かなくなってきた現状を見ると、あの汗をかきかきの“創業期”の価値が更に貴重なものに思えてきます。

まちつくりは総合デザイン、そこに向けての考え方やそれを実現する方策について、今後も書いていきたいと思っています。

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信時 正人

株式会社エックス都市研究所理事 和歌山県出身
東京大学都市工学科卒
三菱商事株式会社(情報産業、開発建設、金融)を経て、(財)2005年日本国際博覧会協会(政府出展事業 企画・催事室長:日本館の企画・運営、政府主催催事担当)、東京大学大学院特任教授(UDCK、柏の葉アーバンデザインセンターの立ち上げ)、横浜市入庁後に都市経営局都市経営戦略担当理事、地球温暖化対策事業本部長等を歴任(横浜スマートシティプロジェクト、環境未来都市等推進)。
東京大学まちづくり大学院非常勤講師、横浜国大客員教授等、他に(一社)UDCイニシアチブ理事(UDCの拡大と立ち上げ支援を目的に出口東大教授等と設立)

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