時代読解コラム

網岡健司「地域進化論」を考える 〜持続可能なまちづくりのビジョン、ミッション、パッション〜 第七話

  • 2019年09月04日
LINEで送る
Pocket

本コラムでは、初回から地域進化に関するいくつかの「論」を駆け足で紹介してきました。
少し間が空いてしまいましたが、今回からは筆者自身が四半世紀以上関わってきた福岡県北九州市(特に八幡東田地区)における地域の進化の歩みをご紹介しながら、持続可能なまちづくりのビジョン、ミッション、パッションについて一緒に考えていきたいと思います。

プロローグ 「世界進化遺産」北九州市・八幡東田

ユネスコの世界遺産は、皆さんご存じのことと思います。
現在、世界各国に1千箇所以上の世界遺産が登録されていますが、我が国にも姫路城、厳島神社そして富士山などをはじめ世界に誇るべき世界遺産がたくさんあります。
本年7月6日、アゼルバイジャンの首都、バクーで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会において、世界最大級の墳墓である「仁徳天皇陵古墳」(大山(だいせん)古墳)を含む「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」(大阪府)の世界文化遺産への登録が決定され、我が国として23件目の世界遺産が誕生したのは記憶に新しいところです。

さて、2015年にドイツのボン市で開催された世界遺産委員会に日本政府が推薦し、世界文化遺産に登録されたのが、「明治日本の産業革命遺産~製鉄・製鋼、造船、石炭産業~」でした。
これは,日本が江戸幕府末期から明治維新を経て明治末期に至る50年ばかりの短期間に産業革命を成し遂げて近代国家の仲間入りを果たしたことが世界的にも稀有な事例であり、このストーリーを証左する産業遺産群が九州・山口地域を中心に残っていたことから、これらの遺産群を一連のグループとして世界遺産に登録したものです。

この世界遺産の構成資産として、北九州市・八幡東田地区等にある八幡製鉄所構内のいくつかの歴史的建造物が含まれています。何故なら、この地が1901年にアジア初めての本格的な銑鋼一貫の官営製鐵所 (Imperial Steel Works, Japan )が操業を開始し、我が国の産業の近代化を牽引した地、すなわち「日本の産業革命発祥の地」であると認められたからです。

また、この世界遺産登録は我が国にとって以下の3つの点が特徴的でした。
1つ目は日本では石見銀山、富岡製糸場に次ぐ3番目の産業遺産の登録であったこと、2つ目には構成遺産の所在地が九州・山口から釜石(岩手県)や韮山(静岡県)など8県11市にわたる極めて広い範囲に及んでいること(「シリアル・ノミネーション」あるいは「シリアル・プロパティ」などと呼ばれます)、そして3つ目としては、我が国初となる「現役で稼働している産業施設」すなわち生きている生産設備を構成資産に含む世界遺産登録であったことでした。

筆者は、新日本製鐵㈱(現在の日本製鉄㈱)八幡製鉄所においてこの世界遺産登録プロジェクトを実務統括する立場でしたので、ユネスコやその諮問機関であるイコモスなどの海外専門家の調査への対応や要人の見学のご案内をする機会が多々ありましたが、その際以下のことを申し上げてきました。

「八幡東田における革命はけっして過去形ではありません。現在進行形です。
何故なら、八幡製鉄所は現在でも世界最先端の鉄鋼製品を生産している現役の工場として、隣接する東田地区も「世界の環境首都・北九州」実現に向けて革新的なプロジェクトが進行する街として、共に持続的に進化を続けているからです。
この地は「世界文化遺産」だけでなく、「世界進化遺産」でもあるのです。」

今回はここまでとします。
次回からはいよいよ、八幡東田地区を中心に北九州の都市の変遷、すなわち1901年の官営製鐵所操業開始以来、我が国の産業革命発祥の地として産業の近代化や戦後の高度成長を支えた工業都市としての発展、1960年代からの公害克服の過程を経て、エコタウン、スマートコミュニティ創造事業などを通じて環境都市へ、そしてさらにSDGs創造未来都市として世界のグリーン革命発祥の地への進化を目指す「世界進化遺産 北九州・八幡東田」のものがたりを一緒に辿っていきましょう。

【参考文献・サイト】
・「明治日本の産業革命遺産」公式サイト
http://www.japansmeijiindustrialrevolution.com

網岡 健司

株式会社エックス都市研究所参与
名古屋大学大学院工学部原子核工学科修了
新日本製鐵株式会社(現 日本製鉄株式会社)に入社し、八幡製鐵所配属。同社のスペースワールド班に参加、以降一貫して北九州市八幡東田地区の都市再開発事業などの地域開発に携わる。
北九州市特区専門官、参与ならびに北九州市立大学院特任教授等を歴任(非常勤)、産官学一体の立場から持続可能なまちづくり推進の一環として社会変革を促す地域プロジェクトを企画・プロデュース。「情報の港」北九州e-PORT構想やエネルギー革命をもたらす東田コジェネ事業、「環境パスポート事業」、スマートコミュニティ実証事業、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録など数々のプロジェクトを手掛けている。
他にNPO法人里山を考える会理事、九州国際大学大学院特任教授「地域政策論」担当、八幡東田まちづくり連絡会会長などを務める。

一覧に戻る